スキャンツールがあっても、なぜ診断を間違えるのか
―元ディーラー工場長が現場で何度も見た“落とし穴”―

スキャンツールとエンジン警告灯を背景に、故障診断の落とし穴を示したイメージ
スキャンツールとエンジン警告灯を背景に、故障診断の落とし穴を示したイメージ

後編記事 :
故障コードが出ないのに調子が悪い理由
― スキャンツールがあっても迷う“いちばん厄介な不調”


1. 導入|スキャンツールをつないだのに、直らない

・スキャンツールをつないだ。  

・故障コードも出ている。  

・手順も間違っていない。

……なのに、直らない。

現場では、こんな場面は珍しくありません。  
むしろ「あるある」です。

スキャンツールが高性能になった今でも、  診断を間違えるケースは普通に起きます。
それはスキャンツールが悪いからではなく、「判断する人間側が引っかかりやすい落とし穴」があるから。

まずは、  “スキャンツールがあっても判断を誤ってしまう典型的なケース”から見ていきましょう。


2. スキャンツールは“答え”を出す道具ではない

まず大前提として。

スキャンツールは
「答えを出す道具」ではありません。

あくまで

  • ECUが見ている情報
  • 判定結果
  • 現在や過去の状態

を教えてくれる判断材料です。

診断(データを見る)と、判断(原因を決める)は別物。
この区別があいまいになると、一気に判断を誤ります。

ECUとセンサーの情報をスキャンツールが読み取り、数値と故障コードとして表示する仕組みの図

3. 若いころの失敗|数字を信じすぎたあの頃

正直に言います。

若いころの私は、スキャンツールを 信じすぎていました。

故障コードが出ている
→「これが原因やな」

実測値が基準内
→「ほな、正常やろ」

今思えば、
かなり危うい判断です。

実際、
コードどおりに部品を交換しても直らず、
再入庫したことは一度や二度ではありません。

そのたびに

「なんでや……」

と、
首をかしげるばかりでした。

当時はまだ、
数字が示しているのが“答え”ではなく“状況の一部”だということを、ちゃんと理解できていなかったんやと思います。


4. なぜその判断をしてしまったのか

理由は、実はシンプルです。

スキャンツールがある安心感

早く原因を出さなければ、という焦り

そして、経験不足

中でも一番大きかったのは、
「数字が出ている=正解」
という思い込みでした。

スキャンツールに表示される数値やコードを、
無意識のうちに「答えそのもの」だと思っていたんです。

でも実際は、
その数字は「結果」であり「途中経過」であり
ECUがその瞬間に見ていた情報に過ぎません。

本来やるべきだったのは、
その数字が

  • いつ
  • どんな条件で
  • なぜ出たのか

を考えること。

当時の私は、そこを飛ばして「表示された内容」だけで判断してしまっていました。


5. 工場長になって気づいた“判断のズレ”

工場長になってから、
同じミスをする後輩を、何人も見てきました。

  • 故障コードだけを見て原因を決める
  • 実測値が基準内だから、それ以上深掘りしない
  • 再現条件を確認しないまま、作業を進める

その姿を見るたびに、
心の中で思っていました。

「あ、これ……昔の俺やな」と。

決して、スキャンツールが悪いわけではありません。
むしろ、スキャンツールは

正直すぎるくらい正直な道具です。

問題は、それを使う側の考え方と、判断の順番。

工場長として見ると、「ツールに振り回されている状態」がよく分かるようになりました。


6. 工場長として部下に伝えていたこと

――数字を見る前に、まずやるべきこと

工場長として、部下によく伝えていたことがあります。
それは、「数字を見る前にやることがある」ということでした。

「スキャンツールをつなぐ前」に、「画面を見る前」に、
まずやるべきことがある。

それが、「ヒアリングと条件整理」です。

私は部下に、よくこう言っていました。
「まず、話を聞け」と。

  • いつ症状が出たのか
  • どんな走り方をしたときか
  • 毎回なのか、たまになのか
  • 直前に何か変わったことはないか

数字を見る前に、現象を頭の中で整理する。
一発で原因を決めようとするな。
スキャンツールは、最後でいい。

先に押さえるのは、

  • 再現性
  • 症状が出る条件
  • 過去の履歴

この土台ができてから、スキャンツールで裏を取る。
この順番を守るだけで判断ミスは、本当にかなり減ります。

症状が出た条件やタイミングは、記憶だけに頼らずメモとして残しておくのがおすすめです。
実際の現場でも、こうした記録があるだけで判断のスピードと精度が一気に上がることがあります。

きれいにまとめる必要はありません。
日付と状況が分かるだけで十分です。

故障コードをそのまま信じて部品交換し再発する流れと、条件整理から正しく診断する流れの比較図


7. スキャンツールを正しく使うために必要な視点

スキャンツールを使ううえで、大事にしてほしい視点があります。

まず一つ。
故障コード=原因ではありません。
コードは、あくまで「ECUがそう判断した結果」です。

次に、実測値。

実測値は、
その瞬間の “「点」”を見るものではなく、
どう変化しているかという
“「流れ」”を見るものです。

そして、もう一つ。

  • 条件
  • 過去の履歴
  • 実際のフィーリング

これらを、必ずセットで考えること。
数字は、嘘をつきません。

でも、数字だけでは足りない。

判断するのは、ツールではなく、人です。

ちなみに、
警告灯が点いた・消えたという事実を把握するだけであれば、
簡易的なOBD2スキャンツールでも十分役立つ場面はあります。

もちろん、それだけで原因が分かるわけではありません。

ただ、
「今どんなコードが入っているのか」
「過去にどんな履歴が残っているのか」
を知る材料としては、持っていて損はない道具です。

あくまで、判断するためのヒントを集める道具として使う。
それが正しい距離感やと思います。



8. 次回予告|コードが出ないのに調子が悪い理由

ここまで読んで、こんな疑問が浮かんだ人もいると思います。

「じゃあ、コードが出ない不調はどう判断するん?」

実はこれ、
スキャンツール診断の中でもいちばん悩むポイントです。

次回は、「故障コードが出ないのに調子が悪い理由」

について、
もう少しだけ深く掘り下げていきます。




9. まとめ|スキャンツールは「地図」、迷うかどうかは人次第

スキャンツールは、とても強力な道具です。

でも、それだけでゴールに着けるわけではありません。

地図を持っていても、現在地を間違えたら人は迷います。

スキャンツールも、同じです。

道具が示すのは、あくまで情報。
判断するのは、最後は人。

振り回されすぎず、過信もしない。

それが、一番トラブルを減らす使い方やと、元工場長としてそう思っています。


よくある質問(おさらい)


Q. 故障コードが出ているなら、その部品が悪いということですか?

いいえ。
故障コードは「ECUが異常と判断した結果」であって、
その部品が本当に壊れているとは限りません。
コードは原因ではなくヒントです。


Q. 実測値が基準内なら、その部品は正常ですよね?

一概には言えません。
実測値は「その瞬間の数値」なので、
走行中や負荷時にどう変化するかを見ないと
本当の異常は分かりません。


Q. スキャンツールがあるのに、なぜ診断を間違えるのですか?

数字やコードを
そのまま「答え」だと思ってしまうからです。
大事なのは、
いつ・どんな条件でその数字が出たかです。


Q. OBD2スキャンツールは意味がないのですか?

意味はあります。
今どんなコードが入っているか、
過去に何が起きたかを知るための
判断材料として有効です。
ただ、それだけで原因が分かるわけではありません。


Q. 警告灯が消えたら直ったと考えていいですか?

多くの場合は違います。
条件が変わって一時的に消えただけで、
本当の原因が残っていれば再発します。


Q. スキャンツールを使う前に、まず何をすべきですか?

まずは
症状が出た条件を整理することです。
いつ・どんな走り方で・どれくらいの頻度か。
これを押さえてからスキャンツールで確認します。


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元トヨタ系ディーラー工場長が発信する整備士ブログ。
資格:トヨタ検定1級/自動車検査員。
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