エンジンが“ガラガラ”鳴る朝 -その音、放って大丈夫?

冬の朝にエンジンを始動した際の冷間時イメージ

スキャンツールでは拾えない、“朝だけ異音”の診かた

冬の朝にエンジンを始動した際の冷間時イメージ



目次

1. はじめに:冬の朝、“ガラガラ音”で目が覚める

冬の朝、エンジンをかけた瞬間に聞こえる「ガラガラッ」という音。
寒さとともに現れる、いわば**エンジンの“寝起き音”**です。

この音は、低温でオイルが硬くなり、エンジン内部の潤滑が追いつくまでの短い時間に発生します。
ピストンやバルブ、チェーンが動き始める数秒間の“空打ち時間”を反映したもので、多くの場合はすぐに消えます。

整備士の現場では、この一瞬の音だけで「今日はオイルが重そうやな」「だいぶ冷えてるな」と、状態を直感的に読み取ることもあります。

“一瞬だから”の思い込みに注意

ただし、音が一瞬だからといって安心していいとは限りません。
寒冷期は、この短時間の潤滑不足が毎朝繰り返されることで、オイル劣化や部品摩耗につながるケースもあります。

冬の朝の数秒間は、エンジンにとって重要なチェックタイムだという意識が大切です。

参考動画:シークレットカープロフェショナルさん

水平対向エンジンの異音原因を分解解説


2. 原因①:オイル粘度と潤滑遅れ

冷間時のオイル硬化と油圧遅れ

低温になるとエンジンオイルは硬くなり、始動直後は各部へ行き渡るまで時間がかかります。
油圧が立ち上がるまでの間、金属同士がわずかに擦れ合い、ガラガラ音として現れます。

空打ち時間とガラガラ音の関係

この“空打ち時間”は、

  • エンジン設計
  • オイル粘度
  • 使用環境

によって変わります。
実際の現場では、寒冷地で0W系オイルに変更しただけで始動音が明らかに静かになった例も少なくありません。

粘度・劣化・残留性のポイント

粘度が高すぎると冷間潤滑が遅れ、低すぎると油膜不足のリスクがあります。
さらに、オイル劣化や内部に残った汚れ(残留性)も、朝鳴きの要因になります。

元工場長メモ

「粘度を見直したら音が消えた」
そんな事例は、実際の整備現場では珍しくありません。

 冬のガラガラ音は、まずオイルを疑う
これが基本です。


3. スキャンツールに映らない“耳診断”の世界

スキャンツールに頼らずエンジン音を確認する整備士

DTCが出なくても異音は起こる

朝だけ鳴るガラガラ音の多くは、DTC(故障コード)が残りません。
理由はシンプルで、

  • 一瞬で収まる
  • センサー異常ではない
  • 油圧や機械的な遅れが原因

だからです。

 警告灯が点いていない=安心、とは限りません。

センサーが数値化できない“感覚トラブル”

異音・振動・違和感。
これらは完全に数値化できません。

だからこそ整備現場では、
**「耳・感覚・経験」**が重要になります。

整備士の耳が頼りになる理由

  • どこから鳴っているか
  • 回転数で変化するか
  • 暖まると消えるか

これらを瞬時に判断できるのは、スキャンツールではなく“人の感覚”です。

 数値に出ない異常こそ、初期トラブルの入口になることがあります。

参考動画:デーボン自動車整備工場さん

暖機後のアイドリング異音調整の実例


4. 原因別トラブルガイド:どこから音が?

【オイル系】フィルター・ポンプ系統

  • オイルフィルター逆止弁不良
  • オイルポンプ内部摩耗

始動直後に油圧が立たず、ガラガラ音が出るケース。

【バルブ系】VVT/VTEC/VTC アクチュエータ

油圧制御の可変機構は、冷間時に影響を受けやすい部分です。
作動遅れが、そのまま異音として現れることがあります。

【チェーン系】油圧テンショナー

油圧テンショナーが一瞬戻り切らず、チェーンが暴れて音を出す。
「始動直後だけ鳴る」典型例です。

【補機系】オルタネーター/アイドラプーリー

エンジン本体ではなく、補機類のグリス硬化やベアリング抵抗が原因のこともあります。


5. メーカー別“朝鳴き”傾向と実例

※同じメーカー・同じ車種でも、使用環境や整備状況によって症状は異なります。

― メーカー差ではなく「制御方式の違い」

朝鳴きは「このメーカーが弱い」という話ではありません。
整備現場で見えてくるのは、油圧制御を多用する設計かどうかという違いです。

トヨタ:VVT-i 系の作動遅れ

冷間始動直後にガラガラ/ジャラッと鳴り、数秒で消える。
オイル粘度や管理状態で差が出やすい代表例です。

ホンダ:VTC 系の油圧立ち上がり遅れ

「VTECが鳴る」と言われがちですが、実際はVTCが原因のケースが多い。
寒冷地・短距離走行車で出やすい傾向があります。

日産:CVTC+チェーン系

油圧テンショナー残圧が抜け、始動直後に一瞬チェーンがたるむケース。

マツダ:S-VT 系の低温レスポンス

オイル管理や使用環境の影響を受けやすく、短距離走行車で発生しやすい印象です。

スバル:油圧テンショナー系の戻り音

水平対向特有の構造もあり、朝一の音が強調されて聞こえることがあります。

重要なのはメーカー名ではなく、音の出方と再現性です。


6. 整備士が実践する“冬の対策とメンテ”

低温対応オイルの選定

メーカー指定範囲内で、低温流動性の高いオイルを選ぶことで、始動直後の異音が軽減することがあります。

始動直後の急発進は避ける

始動後すぐは油圧が安定していません。
最初の30秒〜1分は回転を上げず、エンジンを“起こす時間”を作ることが大切です。

内部洗浄(フラッシング)は状態次第

汚れが原因の場合もありますが、距離や状態次第では逆効果になることも。
必ず整備士判断が前提です。

放置すると長期トラブルに

「朝だけだから」と放置すると、摩耗が進行し修理コストが跳ね上がるケースもあります。

 軽く見ないことが、最大の予防策です。


7. まとめ:ガラガラ音はエンジンの“寝起きサイン”

冬は、人も機械も動きが鈍くなる季節です。
エンジンも冷え切った状態から目を覚ますとき、一瞬ガラガラと音を立てることがあります。

この音は必ずしも故障ではなく、低温と油圧特性が重なった初期サインである場合も多いのです。

大切なのは、

  • 何秒続くか
  • 毎朝出るか
  • 暖まると消えるか

この3点を意識すること。

スキャンツールに映らない時こそ、
音・タイミング・再現性が重要な情報になります。

小さな音ほど、気づけるかどうかがエンジンの寿命を分けます。

エンジンも朝はゴホゴホ言いたい。
でも、毎朝続くなら -それはもう風邪です。


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元トヨタ系ディーラー工場長が発信する整備士ブログ。
資格:トヨタ検定1級/自動車検査員。
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